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『スリー・ビルボード』1回目クラス【復習編】2


クラスの最後にBrianさんがフラナリー・オコナー『善人はなかなかいない』からの一節を引用して映画のテーマとの関連性についてコメントしてくれました。でも、どういう関係があるのかよくわからなかったという声があったので、クラスのあとでBrianさんに聞いた話を元に解説します。

どんな関連性があるの?  映画中の登場人物が読んでいる本に注目!

主人公ミルドレッドが広告代理業者レッドの事務所を訪ねる時に、レッドは一冊の本を読んでいます。その本がフラナリー・オコナーの作品集『善人はなかなかいない』Flannery O'Connor(1925-1964) "A Good Man Is Hard To Find"(1953)です。

これは、何を意味するのでしょうか?

小説・映画どちらも「もしカトリック信仰の倫理感が喪失したら?」がモチーフになっている

表題作『善人はなかなかいない』はフロリダに向かう家族が行きずりの強盗によって殺されるという物語です。

オコナーは、カトリック信仰の倫理観が失われた世界の絶望感を描いています。

"A Good Man Is Hard To Find"(善人はなかなかいない)という表現が一度だけ出てきます。「塔」(The Tower)というレストランで店の主人レッド・サミーが主人公のおばあさんと「良き時代」(better times)について話しているときに言うセリフです。

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“A good man is hard to find,” Red Sammy said. “Everything is getting terrible. I remember the day you could go off and leave your screen door unlatched. Not no more.”

「善人はなかなかいない」レッド・サミーは言った。「何もかも悪くなる一方です。昔は玄関網戸の内鍵をかけなくたって出かけられたものですよ。もうそんなことはできやしない」

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ちなみに、映画中で『善人は~』を読んでいる広告業者の名前が「レッド」というのは偶然とは思えませんね(^-^)

一方『スリー・ビルボード』は、娘を失った主人公ミルドレッドがカトリックの信仰を失いながらも、かすかな希望を見出していくまでの物語です。

絶望から希望への過程を描いた『スリー・ビルボード』

敬虔なカトリック教徒だったオコナーは評論集『秘義と習俗』の中で、「人間は不完全で悪に傾きやすいが、努力すれば神の働きかけによって救われる」と書いています。

さながら『スリー・ビルボード』は復讐心に囚われたミルドレッドや人種差別主義の警官ディクソンが、警察署長ウィロビーの働きかけによって、内なる“善きもの”を自ら呼び起こす。そして、救われる。

そんな物語といえるのではないでしょうか。

みなさんは、どうご覧になりましたか?

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