今回取り上げた場面で交わされる会話は見た目以上に複雑でしたね。Elliotさんにそう伝えるとこんな返事が返ってきました
You're right, this scene is a bit complicated. The whole exchange between Montgomery and Ralph is based on them sort of teasing each other. Their talk becomes serious, but even that seriousness is built on humor and sarcasm, which is a way that I think a lot of men in America bond with each other. It allows them to care for each other without seeming to do so. It's strange.
納得しました。友情で結ばれたラルフとモンゴメリーの会話はお互いにからかい合うユーモアと皮肉が含まれています。それはさりげない思いやりの表現なのですね。
具体例を見ていきましょう。まずは会話の始まりです。
ラルフ:
What do you want? (何の用だ?)
モンゴメリー:
Pizza sounds good. You wanna eat? (ピザでもどう?)
うーん、よくわからないです。Elliotさんに聞きました。
Basically, Ralph is asking, Why are you here? What is your purpose?
He has had a bad night and doesn’t want to see anyone. He is being defensive, so instead of saying hello, he is basically saying why are you bothering me?
ふむふむ ラルフは「何の用だ?」「なぜ放っておいてくれないんだ!」という意味で”What do you want?” と言っているということですね。
でもそれに対するモンゴメリーの答えはズレています。”Pizza sounds good.” は「何か食べに行かない?」などの提案に対する答えです。これは意図的に言っているのでしょうか?
That’s right. Montgomery wants to cheer Ralph up and make sure that he is okay, so Montgomery is being playful and pretending that Ralph is being nice to him, pretending that he is saying what do you want for dinner.
なるほど
モンゴメリーはWhat do you want? (何の用だ?)を通常の意味ではなく、what do you want (for dinner)?(夕食は何がいい?)と理解したふりをしているんですね。ラルフを元気づけるためのボケをかましているというわけです。しかし、ラルフはそんなモンゴメリーの気持ちをはねつけます。
I died out there tonight, and you’re talking about fucking pizzas.(おれは今 舞台で死んだなのにピザの話かよ)
ここで使われているfuckingは苛立ちを表す卑俗・強意表現なので無くても意味は通じます。ところがモンゴメリーはここで再びボケをかまします。
No, I’m talking about eating pizzas.
これは字幕に訳されていないので英語で理解しないと伝わりにくいです。彼が“eating”を強調して話すことに注目してください。つまり「fucking pizzas(ピザとセックスする)じゃなくて eating pizzas(ピザを食べる)という話をしているんだ」と言っているのです。fuckingを卑語・強意表現としてではなく動詞として受取ったジョークです。
ラルフはOh, that’s very funny.(あー おもしろい おもしろい)と皮肉っぽく言って身構えた態度を崩しません。モンゴメリーはそこではじめて正攻法の勇気づけを試みます。
You had a bad night, man. That happens. (ついてなかったんだよ よくあることさ)
ラルフはYeah, not to me it doesn’t.と言います。「おれは完ぺき だから自分にそんなことは起こらない」ということなのでしょうか? Elliotさんに聞いてみました。
You could interpret it as meaning I’m perfect, but I think Ralph is talking about himself as a performer. He wants to think that he is good enough and professional enough to never have a bad night, or maybe even that he is funny enough to make any person laugh at any time and at any gig.
なるほど プロのパフォーマーとしてのプライドが「よくあることさ」などという慰めの言葉を拒否させたんですね。
そこでモンゴメリーは「プロは甘くないぞ」的にアプローチを変えます。
Look. All anyone ever promised you was seven classes a day and a hot lunch. The rest is up to you, Ralph.(学校なんて教えて昼食を出すだけさ あとは自分次第)
モンゴメリーは続けます。
I mean back in the Middle Ages, actors, they didn’t even want to bury us.(中世のころ役者は埋葬さえしてもらえなかった)
theyは世の中の人々、usは役者です。モンゴメリーによれば、中世において役者は身分が低かったため墓標もない場所に捨て置かれた、記憶される価値のない人間だとみなされたということですね。
Well, they do now.
とラルフは答えます。これはどういう意味でしょうか?「現代の世の中では役者だって埋葬される」という意味でしょうか? そのあとにモンゴメリーはNot if you’re good.(いい役者ならburyされることはない)と答えるのでつじつまが合いません。Elliotさんに質問してみました。
I think they are playing with the meaning of the word bury.
Montgomery uses the word literally, and is suggesting that actors weren’t considered worthy of burial in the Middle Ages. In other words, they were low in the ranking system and their bodies could just be thrown aside in unmarked places because they weren’t worth remembering.
Ralph then counters with a slang usage of bury. He says that people want to humiliate and belittle actors. When you get buried, you are defeated and/or made to look bad/small, etc.
そうだったのか! ここが最も理解しづらい箇所でしたがはっきりしました。整理するとこうなります。
モンゴメリー:
I mean back in the Middle Ages, actors, they didn’t even want to bury us.
(中世のころ役者はbury[埋葬]さえしてもらえなかった)
ラルフ:
Well, they do now.
(でも今じゃ客/世間/批評家はおれをdo=bury[ 葬り去る/やり込める/やっつける])
モンゴメリー:
Not if you’re good.
(いい役者ならnot burry[葬り去られない/やり込められない/やっつけられない])
2人はお互い別々の意味でburyを使って言葉遊びの応酬をしていたのですね。
ラルフはHow do you know if you’re good?(どうすれば分かる? 自分がいい役者かどうか)と哲学的ともいえる切り返しをします。
もちろん正解はありません。モンゴメリーはJust hang in, I guess.(諦めないでやりぬくだけさ)と答えます。ラルフは真剣な面持ちになります。そして敬愛していた実在のコメディアン、フレディ・プリンゼについて語り始めます。彼が成功して知ったこと、高級車・クスリ・有名人…。それらは彼が嫌悪していたことだった。フレディはそんなものを手にした自分になりたくなかった…
No?(そうなのか?)とモンゴメリーはたずねます。
そこでラルフはジョークを言います。
No. He wanted to be Joe Namath.(どちらかといえばジョー・ネイマスになりたかったんだ)
ジョー・ネイマスは米国の有名な元プロフットボール選手で俳優としてメディアに出演したこともあるようです。このジョークが面白いかどうかはさておき(米国でジョー・ネイマスがどんな人物として受け入れられているかを知らない限りわからないでしょう)、大切なのはモンゴメリーの反応です。彼はこのジョークに思わず笑います(くだらなさ過ぎて笑ったのかもしれません)。
ラルフは言います。
You laughed. I guess I’m funny.(笑ったな やっぱ おれって面白いかも)
彼はここで自信を取り戻し、本来の自分に立ち返るのです。
この場面で描かれていることをまとめるとこうなります。
最悪のステージパフォーマンスの後でラルフは落ち込みます。そんな彼をモンゴメリーはまず下手なジョークで勇気づけようとします。
それでもラルフは自分の殻に閉じこもったままです。モンゴメリーはアプローチを変えます。ラルフに現実の厳しさを思い出させようとするのです。
言葉遊びによるボケとツッコミが続きます。
ラルフは「いい俳優とは何か?」という根本的な問いかけをします。シリアスな雰囲気になります。実はその真面目な話はジョークの前振りでした。ラルフがオチをかまします。
モンゴメリーが笑います。ラルフは自信を取り戻します。
ラルフを元気にすることに成功したモンゴメリーは最後に言います。
Come on. Let’s get out of here.(さあ 行こうぜ)
いかがでしょうか?
ラルフとモンゴメリーの友情を描いた場面。
字幕なしで理解するとじ~んときますよ。
Fame ラルフとモンゴメリーの会話
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