映画『フォロー・ミー』(1972)の面白さは「すれ違いの会話」にあります。
チャールズは妻ベリンダが浮気をしているのではないかと疑っています(実際はしていません)。ベリンダは上流階級出身の夫チャールズが属する社交界に馴染めずに、なんとなく負い目を感じています。
You know how I feel with you? Guilty.(私の気持ちがわかる? 罪悪感よ)
チャールズはそれを浮気による「罪悪感」と受取ります。
"Really?"(ほう) "Indeed."(いかにも)と彼の反応が冷淡なのはそのためです。
ベリンダは急に怒り始めます。
Yes, indeed. Indeed! There you go, that iceberg language of yours. I can’t stand it!(そうよ! 「いかにも」「いかにも」! それよ! その冷たい言い方が我慢できないの)
それに対してチャールズは落ち着いた口調で皮肉を返します。
Well, forgive me. I should take more care to pick my words. I haven’t your advantage with the English language.(まあ、許してくれ。もっと慎重に言葉を選ぶべきだった。僕は英語に関して君のように秀でた才能を持っていないからね)
ベリンダはイラついたように言います。
What’s the matter with you? You’ve changed so much.(どうしちゃったの!? あなたすごく変わったわ)
If you could just see yourself. You’ve become so picky and gritty.(自分をよくごらんなさいよ。あなたはとても小うるさく、気難しくなってる)
言い過ぎたと思ったのかベリンダは謝ります。
You can have a go at me if you want.(ごめんなさい…怒っていいわ)
ここで使われているhave a go at という表現は状況に応じて3つの意味になります。
〔試しに〕~をやってみる[にチャレンジする]
〔人を〕言葉で攻撃する、非難する
〔人に〕肉体的な暴行をする
例えば…
A: I’m working on a crossword puzzle, but I’m stuck.
クロスワードパズルをやっているんだけど、行き詰まってしまって
B: Do you mind if I have a go at it?
私がやってみてもいいですか?
My mom had a go at me for being late again last night.
昨夜も遅かったから、母に怒られたんだ。
I can’t believe Tod tried picking up my girlfriend again. The next time I see that jerk, I’m going to have a go at him.
トッドがまた僕の彼女を口説こうとするなんてね。今度あのバカに会ったら、ぶっ飛ばしてやる。
ベリンダは「2」「〔人を〕言葉で攻撃する、非難する」の意味で使っています。
チャーリーは言います。
I don’t want to have a go, as you call it. I expect you to behave as a wife.(怒る? そんなことはしない。妻らしくしてほしい)
この言葉によってベリンダの怒りはさらに増します。「妻」って何よ?! 2人が出会って恋に落ちて、お互いに魅かれ合う。知識やジョークを分かちあった日々は結婚した途端に終わるなんて。
Then they get married and all those gifts stop like they’re just devices for attracting a mate, passports you can throw away as soon as you’ve reached where you want to get, two fixed places called husband and wife.(結婚すれば贈り物は終わる? 結婚相手を釣るための道具だったみたいに? 「夫と妻」という安住の地に着いたら、パスポートは捨てる?)
そんなのはイヤだと、ベリンダは言います。
ベリンダは「結婚した後も出会った頃の気持ちを忘れないでチャールズとの愛情を育み合いたい」と言っていますが、チャールズには「浮気公認にして」とベリンダが言っているように聞こえています。
That’s very cynical.(実に皮肉だな)
ベリンダの自由で率直なところが好きだったのに、それが今は「浮気」を正当化する理由にされているなんて、皮肉だ。とチャーリーは思います。
I’m trying to be honest.(正直でいたいの)
ベリンダは「皮肉」とかではなく率直な気持を伝えているだけです。でも、チャーリーの目には「正直だと? どこまでも大胆な女なんだ」と映ります。
Love for me has nothing to do with contracts.(私にとって愛は契約じゃない)
ベリンダは「妻」という役割のようなものに縛られず、一組のカップルとして触れ合いたいと言います。かつてお互いにいつも呼びかけ合ったように。ベリンダは言います。
It’s all so dead between us.(私たちは冷え切ってる)
チャールズは言います。
You can hardly expect courtship to go on forever.(いつまでも恋愛気分は続けられない)
チャールズは恋愛(love affair)と結婚(marriage)は別のフェイズだと考えているようです。結婚は「恋人」が「妻」になる第二幕なのです。今ベリンダを自分の添え物のように扱っているいう自覚がありません。
ベリンダは結婚してもロマンティックな関係を続けたいと考えています。
2人のすれ違いはどうやって修復されるか? そこがラストに向かう見どころです。
『フォロー・ミー』第2回目のレッスンでは、探偵がある提案を持ちかける場面を取り上げます。
引き続き、映画で英語の筋トレをしましょう!
Let's have a go at it!
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